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2025年8月26日 (火)

ガツンと来る小説

8月26日(火)

もうすぐわたしの夏休みも終わってしまう。いろいろやろうと思っていたのに何もしていない。ただただ暑さをしのいで一日が終わってしまうのだ。ぼうっとするだけで過ぎていく。やばい。

昨日はお茶の水のレモンに行ってパネルを注文してきた。来年の個展用である。シナベニヤが高くつきそうである。お茶の水をぶらぶらしようかと思ったが、暑すぎるので、すぐ電車に乗って帰ったきた。

暑すぎて読書も身が入らない。読みかけの本がだいぶ溜まっているのだが、みんなそのまま読み終わらなくてもいいや。もうやめた。ガツンと来る本がないのだ。

新たに2冊購入。

馬淵明子 『ジャポニスム』(ちくま学芸文庫)

梅崎春生 『十一郎会事件』(中公文庫)

『ジャポニスム』はガツンと来る本だった。厚い本だからしばらく楽しめるぞと思っていたが、面白すぎてもう読み終わってしまいそうである。モネ、ゴッホ、クリムトを中心に書いているが、へえ!そうなのかという箇所が多かった。素描についての箇所が改めて考えさせられた。

「素描の素早さに対する評価は、その職人芸としての速度への賛美であると同時に、その簡潔にして的確な筆遣いへの称賛でもある。つまり線にしろ面にしろ、筆の跡が残って画面の地の上に浮き上がり、それが肥痩をもって自己主張する芸術である。それは対象を見事につかまえると同時に、それ自体として美しくなければならない。

ヨーロッパの素描は一本の線の面白みなどより、それが形態の肉づけをいかに表わし、正しく陰影をとらえ、構図を見事に整えているかを競うものであったから、必ずしも写実的な再現を目的としない線や面の戯れにはなんの関心もなかった。しかしデッサンという語の意味するものが線による輪郭と肉づけを目的とするものだという古典主義的発想から、色彩をも含めた筆による素描というロマン主義的な新しい価値観へと変化してゆくにつれ、素描は大いなる自由を獲得し、十九世紀後半においてはその多様化が飛躍的に進んだ。ちょうどその時代に日本の美術がヨーロッパの舞台に登場したのである。」

梅崎春生の『十一郎会事件』はミステリである。わたしはミステリに興味はないのだが、梅崎春生の語り口が好きなので買ってしまった。「十一郎会事件」の主人公は画描きなので、それも面白そうだった。

「あなたは御存じないかも知れませんが、個展を開くというのは、案外金がかかるんですよ。とても貧乏画描きの僕なんかには、開けそうになかったのですが、Q画廊の主の山本氏ね、これがとても義侠心のある人物でね、僕が個展を開きたがっていることを人伝てに聞いたんですな、人を介して、十日間タダで画廊を貸してやろう、と言ってきてくれた。嬉しかったですなあ。山本氏の義侠心も嬉しかったけれど、山本氏がそう申し出るからには、きっと山本氏が僕の実力を認めたからに違いない。そのことが無性に嬉しかったです。

 で、その日からあれこれ金策して、ええ、会場費はタダでも、他にいろいろ金がかかることがあるんですよ。期日の前の日に、作品二十五点、すっかりまとめあげて、Q画廊に搬入した。夜を徹して壁面にかざりつけた。並べ方によって効果がぐんと違いますからな。効果が良ければ、人も感動して、ついふらふらっと買おうという気になる。いや、何も売ることばかり考えてるわけじゃないのですが、売れないより売れた方がましですからねえ。三つでも四つでも売れたら、ケチな内職をやらずに済むし、その分だけ画業に打ち込めることになるし。」

このままだと全文書き写してしまいそうになるが、あとちょっとだけ写してみよう。

「そして飾りつけ終わって、僕は腕を組んで考えました。人間というものには競争心という奴がある。会場をぐるりと一廻りして、まだどれも売れていなければ、ハハア、まだどれも売れていないな、じゃあ買うのはこの次にしよう、そう思ってさっさと帰って行くかもしれない。ところが作品の一つか二つ、売約済みの赤紙が貼ってあれば、ハハア、なかなか売れ行きがいいんだな、早いとこ買わないと売り切れてしまうかも知れんぞ、てんで大あわてして売約を申し込むことになりはしないか。そう僕は考えた。よし、ニセの売約済みの赤札をひとつ貼っておこう。我ながら人間心理の深奥をついたアッパレな企みでした。……」

このあと、事件が起るのだろうけど、どうなるのか楽しみである。

暑くてなにもやる気がしないので、わたしの十大小説というのをつらつら思い出しながら書き出してみよう。十大小説といっても、そのメッセージの重要性、文章の卓抜さなどの評価基準を当てはめるのではなくて、ただ単にわたしが「面白かった!」という作品を選んでみようと思う。思いつくままに書くので、書き残しもあるかもしれないし、10作品の10にこだわるわけでもない。

夏目漱石『工夫』

森鴎外『青年』

樋口一葉『日記』

島崎藤村『新生』

田山花袋『時は過ぎゆく』

芥川龍之介『歯車』

中島敦『斗南先生』

林芙美子『放浪記』

尾崎翠『第七官界彷徨』

太宰治『津軽』

上林暁『聖ヨハネ病院にて』

梅崎春生『桜島』

安部公房『箱男』

李良枝『由熙』

小山田浩子『工場』

とりあえずこんなところかな。

ほかにもあるような気がするが、今日はここまで。

さて、来年の倉重との二人展のために描いているドローイングの続きをやるかな。今50枚ほど描いたが、あと50枚がんばりたい。この100枚から「成功作」を10点ほど選ぶ予定だ。

 

 

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