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2024年9月23日 (月)

ヤバい

ヤバいという言葉は好きではない。下品な感じがするし、大げさでもある。

李龍徳(イ・ヨンドク)の『死にたくなったら電話して』(河出文庫)読了。

ヤバい。この小説にはヤバいという言葉を使ってしまう。

タイトルの「死にたくなったら電話して」は、いのちの電話で悩み事を相談するといった意味ではない。「死にたくなったら電話して、私もいっしょに死ぬから」という意味である。

主人公は初美という名前のキャバ嬢。とんでもない女なのである。

小説の出来、不出来は人物がしっかり描かれていてユニークであることが決め手になる。『罪と罰』のラスコーリニコフや『変身』のグレゴール・ザムザを見よ。そういう意味では初美は出来がいい。こんな女いるわけがないのにリアリティーが迫ってくる。どんな人物なのか、セリフを何ヶ所か拾ってみることでその片鱗がわかるだろう。あとは実際に読んでみることだな。

●「私たちはね、徳山さん、似てるんです。それでいくつかある類似点のなかで一つ、どうしても友情が身につかない、っていうのがあります。私たちには無理なんです。諦めるしかない。美しい友情というのがひょっとしたらこの世にはあるのかもしれない、でも、それは私たちの身の上には決して起こらないことなんです。私たちというパーソナリティには絶対にありえない。そんな手の届かないもんについてあれこれ思い煩っても、しゃあないやないですか。無視しましょう、ね?徹底的に無視です。友達なんて、いりませんそんなもの。徳山さんには私がいますから」

●「中原さん、中原さんは『俺が説得すればすべての人間を取り込むことができる』と、そう考えてませんでした?さぞ自信がおありだったんでしょう。そのノウハウもあるはずです。だったらどうか、その力のほどを見せてください。殺し文句をください。私たちみたいなガキんちょを、ちょちょいと翻弄してみせてくださいよ。ー必ず儲かる、倍々ゲームの不労所得、苦労なしの年金生活、豪邸と海外の別荘、セレブの仲間入り、有名人の名前をあれも知ってるこれも友達と連呼連呼、周りに自慢できる日々、ネットに書けることいっぱい-そういうの、でも、私たちにとっては全然セールスポイントにならへんのですよ。……だいたい事実としても、あんま信じてないし」

●「仲間、とか、夢、とか、他人のために生きる、とか、チャリティ精神?革命?そんなもん、人集めのための宣伝文句、エサ、手段でしかあらへん。」

●「だって、あらゆる欲求の綺麗になくなんのが、ある意味、理想やないですか?」と初美は微笑み、「食欲なんてはっきり言ってダサいし、キモい。食欲はキモいです。性欲も、身も蓋もない言い方すれば、みっともないし。」

●「その気になれば私はいつだっていいですから」と初美。「今からでもいいです、本当に。方法なんてのも、いざとなってみれば、なんでもいいことです。死にざまなんかいちいち気にするのなんて、所詮この世の名残。未練。男にありがちなナルシな言い訳。女の見栄。綺麗に死にたいとか迷惑かけたくないとか、適当でいいんですから、そんなのは」

街を歩いていて、初美がいないか探してみたりして……ヤバい。

9月20日(金)

マッサージを受けたあと、ギャラリー睦へ。暑い中を歩くのは辛いけどなあと思ったが、がんばって千葉駅から歩く。わたしの作品の入った額を4つも持っている。湿気がひどいので汗だくになる。

むつさんに作品を渡す。これは12月のグループ展「62ウィンターアートフェア」に出すもの。ちょっと早いが、もう持ち込んだわけである。お茶とコーヒーとみたらし団子をいただく。むつさんは、今度来たときにこれを持って帰ってね、と言って、わたしの展覧会のポスターを出してくる。ドイツでやった個展のポスターで、むつさんにあげたのだが、立派な額に入れてくれた。この額を差し上げるわ、ということなのだ。

9月21日(土)

田中啓一郎展、初日。知り合いやギャラリーの常連さんが来てくれる。田中君の作品は気合が入っている。床置きの作品もあり、わたしは「彫刻家」になっちゃえば?とからかう。

9月22日(日)

横浜の倉重と東亭の展示を見に行く。アズマテイプロジェクトは引っ越しをしてから初めてである。横浜から相鉄線で西横浜まで。横浜は千葉から出かけるとやっぱり遠い。地図を見ながらギャラリーまで歩く。ほう、水道道はすいどうみちって読むんだ。しばらく歩いたら、寂しげな商店街があったので行ってみる。喉も乾いたので喫茶店とかないかなあと探していたら、ケーキ屋さんがあったので見ると、2階が喫茶室になっているようだ。ケーキ屋さんに入って階段を昇ろうとしたら店員さんが「ケーキは?」というが、いや、コーヒーだけと言って2階に上がる。客は他にいない。窓側の席に座ってアイスコーヒーを飲む。こういう人知れぬところにある喫茶室はいいねえ!しばらく休んでからアズマテイプロジェクトへ。

倉重が、宮田徹也とワインを飲んでいた。作品は、巨大な紙筒を縦に積み上げて真ん中を赤色で着色したもの。迫力がある。床には白いチョークで文章が書いてある。これを書くのに8時間ほどかかったそうだ。

「学校の先生ってすごいと思うわ。チョークで字を書くって大変だよね」

「いや、大変じゃないよ。床に書くから大変なんだよ」

床に書いてあるので、みんな踏んでいくので、だんだん消えていく。

「消えちゃうんだよねえ」

と言うのだが、消えるからいいのだ。悲しいというのか、儚いというのか情感に溢れている。

文字という意味が、チョークの粉というモノに変化していく。

そこのところを倉重はわかっているのだろうか。不明。

 

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