実存主義者のカフェにて
先日、稲毛のくまざわ書店で、面白そうな本を見つけた。開かないで、外側を見ただけで、よし、これを買おう!と思わせる装丁だった。ジャケ買いというやつである。本のジャケ買いは『Hマートで泣きながら』に続いて2冊目になる。大きくて重かったので、帰りに買うことにしようと決めた。トイレに行ってから、もう一度見てみようと本棚に戻ってみると、あれ?ない!ん?と思って何回も棚を舐めるように見てみたが、やはり件の本はなくなっているのだった。わたしがトイレに行っている隙に、誰かがもって行ったらしい。もって行ったというのは言いがかりというものであろうが、わたしは、自分の本をかすめ取られたという気分になったのだった。油断も隙もありゃしない。悔しい!面白そうだったのになあ。
で、次の日にまた本棚を見たが、なかった。店員が追加で入荷してくれるのを待とうと思ったのだ。ほかにも、「カフカの日記」だとか「つげ義春の対談集」とか魅力的な本があったのだが、わたしは例の本を待った。そして、昨日、とうとうその本が棚に並んでいるのを見つけた。きゃー、嬉しい。店員さんありがとう!さっそく購入。
サラ・ベイクウェル 『実存主義者のカフェにて』(紀伊國屋書店 2024年4月11日発行 ¥3800)
本好きなら、このタイトルだけでやられてしまうな。サブタイトルは「自由と存在とアプリコットカクテルを」
買わないわけにはいかない。表紙にはカフェでカクテルを飲んでいるらしい3人のイラストが描いてある。たぶん、サルトルとボーヴォワール、それともう一人は誰だろう?
著者のサラ・ベイクウェルも魅力的な女性だ。
英国生まれ。幼少期の大半をシドニーで送った後ヨーロッパに戻り、家族とバックパックで太平洋の島々や東南アジアを旅する。英国エセックス大学で哲学を学んだ後、ティーバッグ工場や書店で働く。キングストン大学大学院で人工知能(AI)を学び、図書館の初期刊本の目録作成者や学芸員として働きながら作家になった。オックスフォード大学ケロッグ・カレッジなどで文芸創作を教えた時期もある。ロンドン在住。
今、わたしは他の本を読んでいるところだった。モーパッサンは電車を乗り過ごしてしまうほど面白かったし、織田作之助はやめられないほどであるのだが、『実存主義者のカフェにて』はそれらを押しのけて、わたしの視界から消えないのだった。
こんな箇所を読んでしまったら、もう最後まで一気に読み進めるだけである。
「自分がどれほど有名人になったかをサルトルがはじめて悟ったのは、1945年10月28日、パリのサントロー・ホールの〈クラブ・マントナン〉で講演を行ったときだ。サルトル自身も主催者側も、聴衆の数を少なく見積もりすぎていた。チケット売り場は大混乱に陥り、窓口に近づくこともできないおおぜいの観客が、代金を払わずなかに入っていった。会場では小競り合いが起きて椅子が壊れ、季節はずれの暑さで何人かが気を失った。「タイム」誌の写真にはこんなキャプションが添えられた。「哲学者サルトルに女たちが気絶」」
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