刺繍の物語
来週は「刺繍の物語」というタイトルの3人展が開かれます。
刺繍の物語
ミラン・トゥーツォヴィッチ/ヴァ―ニャ・パシッチ/古賀亜希子
2月21日(水)- 3月2日(土)
どんな展覧会なのか、わたしが短いテキストを書きましたので、これでご理解いただけたら幸いです。
糸が結ぶ物語
吉岡まさみ
セルビアの画家ミラン・トゥーツォヴィッチが52歳の若さで亡くなったのは2019年のことだった。心筋梗塞だった。2020年、Steps Galleryで預かっていた作品を飾って追悼展を開催した。作品は完売した。彼はローマ法王の肖像画を描くように頼まれていたのだが、作品に手をつける前に亡くなったのだ。無念ということさえ感じる間もなく、あっけなく天国に逝ってしまった。
亡くなった後も、ミランの影響力はさまざまな人たちに広がり続けている。ひょっとしたら、天国から話しかけたり、指示を出していたりしているのではないかと思われるほどだ。
ミランは、気に入った人、気になる知り合いを選んで肖像画を描いた。古賀亜希子もミランのモデルになった一人だった。古賀は何度かセルビアに行き、モデルになるだけでなく、個展を開いたり、セルビアの街や人物を写し、ミランの作品や制作の様子を捉えてフィルムに収めていったりした。ミランを写した写真は大勢の興味を惹いた。ヴァ―ニャ・パシッチはミランの最後のモデルになった。モデルをしていた当時はまだ大学生だったが、彼女は刺繍作品を作っていた。ミランはヴァ―ニャの肖像画に刺繍糸を取りつけた。
おそらく、今回の展覧会は天国にいるミランが古賀に
「ヴァ―ニャと亜希子とオレの三人展をやってくれ」
と指示を出したものだろう。
ミランの油絵と、ヴァ―ニャの刺繍、それにミランを写した古賀の写真を並べて三人展とすることになるのだが、その中で、特に注目されるのは、古賀の写真にヴァ―ニャが直接刺繍を施した作品だろう。
モノクロ写真には、ミランがキャンバスに向かって筆を走らせている姿。そのミランに刺繍糸がまとわりついていく。写真を撮った古賀と写真の中で制作しているミランと、刺繍糸を刺していくヴァ―ニャの三人が、糸でつなぎ合わせられていくように見える。
三人の濃密なつながりは、作品を通して見る人の心にも入り込んで、人と人との関係、巡り合わせの不思議にしみじみとした気持ちになるだろう。
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