マーブルヒップ
11月7日(火)
中村ミナト展に長野から今井由緒子さんが来てくれた。今井さんは2021年の女性彫刻家展「ひとつの部屋で」に出品したが、コロナで来れなかった。久しぶりの東京だそうだ。おみやげに長野の林檎を持って来てくれた。店頭には並んでいないものだそうだ。小さいサイズの紅玉である。アダムとイヴのイヴが食べた林檎と同じ大きさである。たぶん…
「ちょっと相談があって…」
と言いながら、スマホで作品の写真を見せる。小さな可愛い彫刻作品である。大理石だそうだ。来年のアートカクテル展にこれを出したいのだそうだ。
「これいいですねえ!」
「でも古いのよ」
「古い作品歓迎です。古い作品は逆に新しく見えます」
「ただ古いんじゃなくて、ものすごく古いのよ。それでもいいかしら」
「いいですよ」
いっしょに見ていたミナトさんが
「これってマーブルヒップって言うのよ」
マーブルヒップ……大理石のお尻である。言葉のとおり、可愛いお尻の形をしている。
「今井さんのマーブルヒップは一世を風靡したわよねえ」
「そんなことないわよ」
「どれぐらい前の作品なの?」
「うーん、ずっと昔の若い時の」
よく聞くと、50年以上前の作品なのであった。どおりで見たことないと思った。
若い人は知らないだろうが、今井さんは彫刻の大御所で、80歳を過ぎている。現在は木で彫刻を作っているが、その前は金属だったし、その前は石を刻んでいたそうだ。
「小さいのがあったから、アートカクテルにちょうどいいと思って」
来年のアートカクテルに出品するが、おそらく一番の目玉作品になるだろう。
今井さんは夜、ミナトさんと食事に行く予定だが、時間があるので銀座をぶらぶらしてくると出かけて行った。
夜になっても帰って来ないので、道に迷ってしまったのか、どこかで倒れているかもと心配していたら、ひょっこり帰ってきた。
「何してたの?」
「ボーイハント」
「ボーイハント!?」
昭和の言葉だ。
「一人も捕まらなかったわ」
11月8日(水)
新幹線で山形へ。
奥さんと二人で、山形の母親を尋ねる。
グループホームに入っている90歳の母親を連れだして、墓参りをし、買い物のあと夕食をいっしょに食べる。蕎麦の庄司屋で天ぷらと板蕎麦。
「遠いのに来てくれて申し訳ないねえ」
と何回も繰り返す。
食べ終わって会計をしに行くと、カウンターに木嶋正吾展のチラシが置いてあった。これを見に来たんですよ、とお店の人に言うと、木嶋先生はこのあいだ食べにいらっしゃいましたよ、と言う。すてきな方ですよねえ…。
11月9日(木)
朝ご飯のあと、山形美術館へ。木嶋正吾展。副館長の岡部さんに挨拶をしてから作品を見る。2階と3階全館をぶち抜いて大作が並んでいる。100号、200号サイズが何十点も並ぶ。壮観である。回顧展だね。
1階のコレクション展もゆっくり見てまわる。山形美術館のコレクションは質が高い。新海竹太郎、新海竹蔵の彫刻をまとめて見られてよかった。クールベ、マネ、モネ、ゴッホ、ピカソ、近代美術は一通り揃っている。
キスリングの作品がよかったなあ。
各駅停車で米沢へ。親戚のお家にお邪魔して、お茶だけ頂いて帰る。
帰りの新幹線の中で、電話を受け取る。平石裕さんからだ。
「フランスのおみやげのサラミがあるんだけど食べる?」
「食べます!」
「じゃあ、ギャラリーに届けておくわね」
一泊二日だったが、数日旅行した気分になった。
さて、来週は甲斐千香子展。作品リストが送られてきた。
なかなか終わらないと言っていたが、大作を含めて19点ある。
明日搬入だから急いでキャプション作らなくちゃ。
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