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2023年8月10日 (木)

夏休みの読書

ギャラリーが休みに入ったのだが、何もすることがない。普通休みになったら、旅行とかするんだろうが、わたしは旅行が好きでない。どこか知らないところに行くのはいいけど、移動が嫌なのだ。疲れるし面倒くさい。コンサートや演劇には行かない。映画も見たいとは思わない。

やることといえば本屋さんをぶらぶらして駅前のタリーズコーヒーでアイスコーヒーを飲むくらいだ。。

趣味とかないわけですよ。どうしたものか…

やることがないから本屋さんをハシゴする。

5冊買った。一冊ずつ紹介してみようっと。

銀座の教文館で本を見ていたら、みすず書房のコーナーで『ファビアン』を見つけた。ずっと読みたかった本だ。いつか文庫で出ないかなあと思っていたのだが、単行本で見つけてしまったからにはもう買うしかない。

エーリヒ・ケストナー『ファビアン』(みすず書房 ¥3,600)

ケストナーは児童文学者だが、『ファビアン』は唯一、大人向けに書いた小説。織田作之助がエッセイで紹介していて、これは読まなければ!と思っていたのだ。買って手に持ったらどきどきするくらいうれしかった。ちょっとずつ読もうと思った。

冒頭で、ファビアンはカフェでコーヒーを飲んでいるのだが、ウエーターに、行ったほうがいいか、行かないほうがいいかと尋ねる。どこに行くのかとウエーターが言う。質問はしないで答えてもらいたい。行かないほうがいいのでは?という答えを聞くと、ファビアンはじゃあ行くことにしようと言うのだ。ウエーターは、私が行ったほうがいいと言えば行かなかったのですか?と言うと彼は、いややっぱり行くだろうと言うのだ。

わたしはここの部分だけで気持ちをしっかり掴まれてしまった。

かっこいい言葉も見つけた。

「複雑な感情を研究しようと思えば、複雑な感情をもっている必要がある。」

昨年「さよなら、ベルリン」というタイトルで映画にもなったようだね。

いい本というのは冒頭が面白い。

木田元 『ハイデガーの思想』(岩波新書)

木田さんはこの本の他にもハイデガーについてたくさん書いているが、これは書き出しが、詩人のパウル・ツェランと哲学者のヴィトゲンシュタインで始める。引き込まれてしまう。

亀山郁夫 『『罪と罰』ノート』(平凡社ライブラリー)

亀山さんにはドストエフスキーを論じながら自分の人生を語るというような本もあるが、この本は『罪と罰』が書かれる経緯が語られていく。

金子光晴 『詩人/人間の悲劇』(ちくま文庫)

「なんの用があって、この世に僕が生をうけたのか、よく考えてみると、いまだによくわからない。」

で始まる自叙伝は読み応えがありそうである。

わたしが高校生の時に、山形市民会館で金子光晴の講演会があった。山形の詩人会のような人たちが呼んだのだろうと思う。話しの内容は覚えていないが、真っ赤なマフラーを首に巻いていたのを覚えている。その後2・3年して詩人は亡くなった。

武藤康史編 『林芙美子随筆集』(岩波文庫)

わたしはテキスト「自由が丘」を書き終えて、今「砂中」を書いている。教員になって1年目のことを書いているが、当時わたしは中落合に住んでいた。林は下落合に7年ほど住んだらしいが、その時のことが書いてあって面白い。林は本格的に油絵を描いていて公募展に出したが落選が続いたそうだ。金子光晴も絵を描いた人だが、林の作品のほうが圧倒的に優れている。

「いま、私の手元には萬鉄五郎氏の十号の風景と、女の像の素描があります。どちらも、萬氏の何気なく描かれた絵で、これは眺める度に涙のあふれる気持ちです。街へ出て、よぎなく酒を呑み、よぎなく踊らされて帰ってくると、私はこの絵を呆んやり見て空虚さを満たします。この二点が手にはいったのは一年も前でしたが、その当時、一月ばかりと云うもの、うれしくて寝られませんでした。萬さんの伝記を読んだりしました。この絵を買ったために貧乏したのもいまはいい思い出です。」

「私は絵でも小説でも力作と云う部類のものを好きません。空気のはいった、生活のはいった何気ない作品が好きです。力作と云うのは往々にして威圧されて苦しくなるからだし、来客がじろじろ見上げるような力作は、部屋をかえって貧弱にしてしまい話のもってゆきようがなくなる気持ちです。」

来年のステップスのコレクション展の案内状に添える言葉を、この本の中から見つけた。

「いい作品と云うものは一度読めば恋よりも憶い出が苦しい。」

 

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