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2020年7月10日 (金)

細部にこだわらない

「神は細部に宿る」

という言葉があって、誰が言ったのか知らないけど、美術作品でも同じことが言えるんじゃないかとか思ったりして、妙に作品の細部にこだわったりすることがあるのだ。

ロベルト・ロンギは 『イタリア絵画史』の中で、まったく反対のことを言っている。曰く

「細部にこだわるな」

ロンギの議論は激越で、いろんな作品が槍玉に上げられている。

たとえば、ピサネッロである。

ピサネッロ 「チェチーリア・ゴンザーガの肖像」

Photo_20200710130401

この作品についてではないが、ピサネッロがこきおろされる。

「すっきりとした勢いのよいリズムでシモーネのようにおおきく描くこともあった。だがたいていは、非常に甘美ではあるが物語へのこだわりに足をとられてばかりいた。たとえば聖アナスタージア教会の翼廊壁面に描かれた、ミサ典礼書の装飾画のような「王妃を救う聖ジョルジョ」がそうだ。ひとつひとつ丹念に描き込んだ動植物の何千もの細部は、全体に融合することもなく、百害あって一利なしの代物だ。」

ロンギは過激だ。

建築についての文章はこんな感じである。

「わたしたちの大部分がそうであるように、卑しい建造物に囲まれて生活し、家を上から下へと逆さまに―石に石を重ねるのではなく、鉄とコンクリートの骨組みの部屋をでたらめに拵えて-建て、建物の正面を有機的に装飾するのではなく、懐古的な甘ったるい漆喰で復活祭のケーキ飾りのようにしてしまい、かと思えばヒンドゥー式バルコニーや中国式パゴダの怪物的発疹をゴシックの窓に積み重ね、コムーネ時代風のグロテスクな偽造教会へミサに行き、そしてまた郊外には巨大な蜂の巣よろしく共同住宅の無数の穴をくり抜く、こういったことを平然と行っているわたしたちに、建築的形態にたいする真実の感覚は獲得できるだろうか。」

たいへん勉強になったのは、線的様式に関する個所である。ロンギによれば、線には2種類ある。それは「機能線」と「華紋線」と命名される。機能線というのは、肉体の波うつエネルギーを讃える線であり、ダイナミックな動きや形を表現しているものである。華紋線は風に揺れる草や小川にそよぐ藻のような、無意識の波動と呼ぶのがふさわしい線である。装飾的な線ということだろう。中国や日本の絵は、華紋線として鑑賞するとよりよく味わうことができるというのである。

ミケランジェロの素描などは機能線で描かれているということだろう。

なるほど、そういう分け方をした上で鑑賞するとわかりやすい。

色彩的様式というのもあって、たとえばビザンティンのモザイク作品などは、色彩絵画として見るべきであるというのである。

以前、わたしは「現代絵画の問題点」という文章を書き、何を描いているのか、つまり、テーマが無い作品について言及したのだが、ロンギはこれまた逆のことを言うのである。少し長いが引用する。

「主題つまり描かれたものは、美術において何の価値ももたない。このことを納得してほしいと、わたしは何度となく言ってきた。線・形・色のコンポジションは主題から独立して存在するのだ。もし主題が重要なものなら、形態が語る無声言語とは何の関係もない歴史や神話などの知識が、美術の理解には不可欠だろう。絵画の価値を判断しようと思えば、物語の筋を知らなくてはなるまい。だから絵画の心理的解釈を重要視しすぎてはいけない。それは芸術家を、パントマイムの、無言の一シーンの、映画フィルムを切り貼りする者の位置に押しこめることになるからだ。

したがって主題に心を砕く画家は良い画家ではない。形態や色彩のコンポジションは、煩瑣を刈り込み、外観の総合的な豊かさへと導くはずなのに、その絵は叙述的リアリズムに埋没し、どれほど努力しても〈説明図〉でしかない部分を増やすことにしかならない。主題派の絵画は記号を使っての転写ではあるが、けっして芸術的な〈表現〉ではないからだ。芸術家に本来的な領域は、〈心理的〉内容を含まず、単に〈形態・視覚的〉内容をそなえているだけだ。

素晴らしい背景に高貴な人物を配置して、世界を美しく解説することに熟達したとしても、その画家の絵は、畢竟説明図であって、芸術ではない。」

極端な言い方をしているようだが、要するに、絵は説明であってはならないということだろう。ロンギがここで取り上げている作品は中世の諸作品なのだが、その時代の「絵画の問題点」ということなのだ。わたしが「主題は大切である」と言ったのは現代絵画についてである。じつはロンギの主張は、わたしの言いたいことと矛盾はしないのである。

要するに「バランス」が大切ということなのだ。

まだ読み始めたばかりなのだが、この本を書いた時、ロンギは24歳だった。

凄いね。

☆展覧会

「安藤満津枝 展」

7月17日(金)-22日(水)

しろがねGallery (三鷹市下連雀3-29-1 マストライフ三鷹 1F)

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「IZUMI 展」

7月21日(火)-30日(木)

10:00-17:00

KEIO PLAZA HOTEL TOKYO 本館3階ロビーギャラリー (新宿区西新宿2-2-1)

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