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2018年11月20日 (火)

梨の花

中野重治 『梨の花』読み終わる。

小学校から中学に入るまでのことが書いてあるのだが、なんでも克明に覚えていてびっくり。

名作だよ。

「…すると良平は、やはりいつだったか、変なことがあったのを思い出した。梨の花が咲いていたのだから春のしまいごろだったにちがいない。『日本少年』の口絵に、「梨の花」という題の油絵がはいっていた。色のなかに細いすじのようなのがいっぱい詰まっている絵、あれは油絵というものだと良平はもう知っていたが、その絵は、梨の木の花が咲いているというだけの絵だったが、見るからに美しかった。絵が、うつくしい……

「梨の花ア……」と良平はへんに思った。

 梨の花がこんなに美しいということがあるもんか。梨の木は、おじさんが癖で植えたのが灰小屋の傍にあった。毎年花が咲く。そして食べられぬほど固いがじがじ梨が成った。あの梨の花が、美しかったもんか。良平には、梨の花を美しいと思ったことは一ぺんもなかった。一郎でも誰でも、梨の花が美しいなんといったものは一人もなかった。大人にもない。

「どら……」

 良平は灰小屋の前へ行ってみた。梨の花は咲いていた。そしてそれがほんとに美しかった。……」

梨の花が美しいと初めて感じた様子が生きいきと描かれていて、感動的である。

しかし、その後、良平はずっと梨の花を美しいと感じているわけではない。

年月を重ねるということは、その時どきで、感じ方も変るのである。

「どうしたじゃろう……

 いつやらはあんなにきれいに見えたのが―あのときは、それまで美しいなんと思ってもみたこともなかったのが、『日本少年』の口絵そっくりに美しく見えておどろいたのだったが―きょうはちっとも美しいと思えない。咲いているのはわかる。花だからきたなくはない。しかしただそれだけで、きたなくもないが美しくはちっとも見えない。……」

『梨の花』の次に買ったのは

小林 忠 『日本水墨画全史』(講談社学術文庫)

Photo

水墨画には全く興味がなかったのだが、これを読み始めたら夢中になってしまった。

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