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2017年9月13日 (水)

赤とんぼ

9月11日(月)

土曜日に金澤麻由子展の搬出、日曜日は午前中、槙野央展搬入のあと、ブログを書いてから金澤作品梱包。売れた作品を包んで、宛名書きをして…終わったのが夜の7時を過ぎていた。たくさん売れちゃったので、梱包が死ぬほど大変なのである。贅沢な悩みではある。

今日と明日は、わたしは身体を休めるのである。

昼まで寝ていて、午後から起きだして、駅前まで出て、お昼を食べようとうろつく。ちょっと歩いたところに美味しい蕎麦を食べさせる店があるので、そこで蕎麦ランチを食べようと思い、行ってみたが、なぜだかお休みだった。あらまあ、残念。あ、ひょっとしたら「赤とんぼ」はやってるかな…と思って店のあるビルに行ってみたら、やっているようだったので、今日は赤とんぼでのんびりすることに決める。

駅前にお酒屋さんのビルがあり、そこの3階が赤とんぼである。昼は喫茶店、夜はバーという店である。立派なバーカウンターがあり、棚には洋酒がいっぱい並んでいる。たぶんだけど、このビルは酒屋さんの持ち物で、せっかく酒があるんだから、バーでも開こうと考えたのではないのだろうか。

商売っ気が全くないのである。余裕でというか趣味でやっている感じなのである。休みも多い。というかめったにやっていないといっても良いくらいである。

ランチはとくに美味しくはない。あまり料理の上手でないお母さんが一所懸命に作っている感で溢れている。

わたしはなぜこんな店に行くのかというと、椅子とテーブルがゆったりしているからである。身体が沈みこみそうなゆったりした椅子と高そうなテーブルが置いてあるのである。全面ガラス張りなので、窓から街路を見下ろしながらコーヒーを飲み、煙草をふかすのである。

Photo

わたしは、ナポリタンとアイスコーヒーを頼んだ。

わたしのほかには、4人組のおばさんが大きな声で笑いながらおしゃべりしているほかは、ひとりでランチを食べているこれまたおばさんが2人いるだけである。

このビルには、ヨガとか、なんとか教室みたいなスペースがあるので、ここのお客はほとんどがおばさんなのである。

そこに新たにもう一人おばさんが現われて、席に着いた。

「あら、○○さんじゃないの?」

と4人組の一人が話しかける。知り合いらしい。

「あらあ、何年ぶり?」

「変らないわねえ!」

「お化粧もしてないのよ」

「お化粧してなくてそれだけなんだからすごいわあ」

わたしは、ケチャップの効き過ぎた腰のないグダグダのスパゲティーを口に運びながら、お化粧したら逆効果だろう、などと考えている。

「私もうナナハチよ」

78歳ということらしい。

「このあいだ、三途の川を渡りそこなったのよ」

「あらあ、どうしたの」

病名はわからないが、家で倒れて救急車で運ばれたらしい。

「三途の川が見えたのよ」

「それって、本当に見えるの?」

「見えるのよ。そしたらさ、川の向こうから、誰かが、あんたはまだ来ちゃだめえー、あんたはまだ来ちゃだめー!って叫んでるの」

「…」

「気がついたら、救急なんとかいう部屋にいたわよ」

「I C U ね」

わたしは、水で薄めたようなアイスコーヒーを飲みながら、煙草に火を点けた。

そこへ、お店の人が

「これ、よかったらどうぞ」

と言ってお皿をコトンと置いていった。

三角に切った西瓜が載っている。

サービスである。

西瓜ももう終わりだなあ。

思いのほか冷たく冷えた西瓜はとても美味しかった。

9月12日(火)

今日もゆっくり起きて、午後からマッサージに行く。いつもの肩や背中のほかに、今日は足裏マッサージも追加して全部で150分やってもらって身体がずいぶん楽になった。

あとは喫茶店で読書。

今読んでいるのはアナトール・フランスの『シルヴェストル・ボナールの罪』。本に埋もれてひっそり暮らす老学者の話だが、なかなか面白い。

或るとき、本の背中に小さな小さな女が現われて、ボナールに話しかける。妖精である。

この妖精の老人に語りかける言葉が、鋭くて美しい。

「シルヴェストル・ボナールさん、あなたはくだらない偽学者です。かねてそうだろうとは思っていたのですが。ズボンの前からシャツの先をのぞかせて道をうろついているどんな小さい子どもでも、やれ学士院やれ学会の、眼鏡をかけた方がたよりは私のことに明るいのです。知識はそらごと、空想こそはすべてです。空想したもののほか何もありはしないのです。私は空想が生んだもの。それこそ「ある」ということではありませんか。人が私の夢を見る、すると私は姿を現わします。すべてはただ夢ばかりです。ところがシルヴェストル・ボナールさん、誰もあなたの夢なぞ見る者はないのですから、あなたこそこの世にありはしないのですよ。私はこの世を魔法にかけてしまいます。私はどこにでもいるのです。お月様の光のうえに、隠れた泉のおののきのなかに、ざわめき動く木の葉かげに、朝な朝な、牧場の窪地から立ち上る白い狭霧のなかに、ばら色のヒースの茂みのなかに、どこにでも私はいるのです。…人は私を見、私を愛してくれます。落葉に歌をうたわせてゆく軽い私の足あとに、みんなは吐息し、おののくのです。私は小さい子供をほほえませ、どんなおろかな乳母たちにも機知を働かせてやります。揺籠のうえをのぞきこんで、からかったり、慰めたり、眠らせたりします。それだのにあなたは私がいることを疑っていらっしゃる。シルヴェストル・ボナールさん、あなたの着ていらっしゃる暖かい綿入を一枚ぬいだら、下には馬と鹿の皮があるのですよ」

本も買った。

読まなければいけない本が溜まってきた。

Photo_2

高橋順子 『夫・車谷長吉』(文芸春秋)文庫ではないが、読みたくて買ってしまった。

井上荒野 『結婚』(角川文庫)

佐々木幹郎 『中原中也』(岩波新書)

木田元 『哲学散歩』(文春文庫)

ゾラ 『ナナ』(新潮文庫)

さて、どれから読もうかなあ。『ナナ』が気になってしょうがないが、どうしようかなあ…


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