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2017年5月24日 (水)

価値測定器

このあいだの『沼地』のほかにもう一編、面白い作品を見つけて、わたしは楽しい。

それは『MENSURA ZOILI』というもので、ゾイリア共和国という国に行く船に乗っているところから始まる。

ある男と芥川だけが乗り合っている船で、その男はゾイリア日報という新聞を読んでいる。その男はゾイリア語が読めるらしい。その新聞には価値測定器のことが大きく取り上げられているのである。

この小説の中に出てくる「久米」というのは、小説家の久米正雄のことであり、「煙管」というのは芥川作の小説である。

「価値測定器と云うのは何です。」

「文字通り、価値を測定する器械です。尤も主として、小説とか絵とかの価値を、測定するのに、使用されるようですが。」

「どんな価値を。」

「主として芸術的な価値をです。… 本なりカンヴァスなりを、のせればよいのです。…価値の大小が数字で現れるのです…」

……

「外国から輸入される書物や絵を、一々これにかけて見て、無価値な物は、絶対に輸入を禁止するためです。…どうも日本の物は、あまり成績がよくないようですよ。我々のひいき眼では、日本には相当な作家や画家がいそうに見えますがな。」

「ここに、先月日本で発表された小説の価値が、表になって出ていますぜ。測定技師の記要まで、附いて。」

「久米と云う男のは、あるでしょうか。」

「久米ですか。「銀貨」と云う小説でしょう。ありますよ。」

「どうです。価値は。」

「駄目ですな。…」

「あなたの「煙管」もありますぜ。」

「何と書いてあります。」

「やっぱり似たようなものですな。常識以外に何もないそうですよ。」

「へええ。」

「またこうも書いてあります。―この作者早くも濫作をなすか……。」

僕は、不快なのを通り越して、少し莫迦莫迦しくなった。

「いや、あなた方ばかりでなく、どの作家や画家でも、測定器にかかっちゃ往生です。とてもまやかしは利きませんからな。いくら自分で、自分の作品を賞め上げたって、現に価値が測定器に現われるのだから、駄目です。無論、仲間同志のほめ合にしても、やっぱり評価表の事実を、変える訳には行きません。まあ精々、骨を折って、実際価値があるようなものを書くのですな。」

気がつくと、芥川は昼寝をしていた、というオチである。

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