2021年10月14日 (木)

ワンダーウォーク

えっと、ここはどこだろう?迷っちゃったかな。乃木坂駅から国立新美術館の裏を横切って、六本木のギャラリー、s+artsに向かっていたのだが、住居表示を見ると、西麻布とある…困った。向こう側の道路の表示には六本木とある。六本木と西麻布は隣なんだね。もう少し歩いて迂回すれば辿り着くに違いないと考えながら、さらに道なりに進んでいくが、右折するところがない。雨が降ってきたので傘をさしてとぼとぼ歩いていくが、どこを歩いているのだかわからなくなってきた。この辺ぜんぜん住居表示がないなあ。なんでだよ!あったまくるぜ。疲れてきた。携帯の万歩計を見ると軽く一万歩を超えている。行こうとしているギャラリーは六本木駅からだと知った道なので大丈夫なのだが、今日はゆえあって、乃木坂から来てしまったのが間違いのもとだった。、もうギャラリーに行くのあきらめようかなと思っていたのだが、よおく考えると、ギャラリーに行くどころか、家に帰リ着くことさえ怪しくなってきた。

 これって、迷子って言うんじゃなかったっけ?自分の居る場所がわからなくなることを迷子と言うなら、これは立派な迷子である。子供じゃないけど迷子とはこれいかに。

 迷子になった人の目的はただ一つ、家に帰りつくことである。ギャラリーに行くことではない。

 今日、わたしは新宿に行き、いつものようにつけ麺を食べてから眼科に行き、薬局で目薬をもらったあと、二つのギャラリーに寄るのである。神保町のLegion で「Women 2021」を見る。5人のうち3人の作家、達和子、中村陽子、井桁裕子を知っている。東京堂書店に行く。サルトルの『自由への道』第4巻があるかどうかチェックに行くのである。なかった…第4巻どころか、『自由への道』が見つからなかった。絶版になるんだろうなあ。神保町駅に戻って、半蔵門線で表参道へ。始弘画廊の中村ミナト展。受付にミナトさんが座っていた。彫刻3点と、壁にジュエリーを飾ってある。展示方法が面白い。

「これさ、あたしパクったのよ展示の仕方。問題になるかなあ…」

「ならないよ」

時間があったので、もう一つ展示を見てから帰ることにする。六本木のs+arts のさとう陽子展。表参道からだと、一駅で乃木坂なので、千代田線に乗って行ってみる。

で、最初の情景に戻るのである。

迷子と言っても、ここは東京の中心部である。ポツンと一軒家を探しているわけではない。とにかく歩いていれば、そのうちどこかの駅に遭遇するはずである。それが東京というものである。

足が疲れてきた。あれ?ここ青山じゃん。どこをどうやって歩いて来たのやら。そのまま進んで行くと大きな通りに出る。見覚えのある交差点が見えた。あ、外苑前じゃんここ。おお、駅だ!これで帰れるぞ。さとうさんには悪いけど展覧会はパス。交差点にあるドトールコーヒーに入って休むことにする。ドトールにはエスプレッソがあるのが嬉しい。

「エスプレッソをダブルで」

「かしこまりました。スプーンは使いますか?」

「はい、使います」

使うに決まってんだろ!たっぷり砂糖を入れるんだよ、おれは!

疲れていらいらしている。

砂糖を2つ、ミルクも入れてかき混ぜる。指でかき混ぜるわけにはいかないのよ。

一口飲む。美味しい!迷子のあとのエスプレッソは格別だねえ。

やれやれな一日であった。

今日はちょっと暇なので、サルトルについて書く。ちょっと難しいかもしれないから、読みたくない人はここでやめていいよ。

サルトルの『自由への道』は1巻、2巻とさらさら読めて、かなり面白かったのだが、3巻に入ると、がらっと書き方が変わる。解説を読むと、3巻に入って「挫折」する読者が激増するらしい。なぜかというと、ストーリーが追えなくなってしまうからだ。登場人物は数人だったのに、3巻に入るといっきに数十人になり、場面も一つではなく、いくつもいくつも重なっている。誰が誰だかわからなくなるし、人物同士の関係もぜんぜんわからない。場所も時間もばらばらなのに、同じセンテンスに入っている。

解説者は、モンタージュの手法と呼んでいるが、小説でモンタージュというのはほとんどなかったのではないだろうか。

次の文章を読んでみてほしい。ミランとダニエルが出てくるが、二人は同じ空間にはいないし、時間もずれている。

「ミラン!やめて。自分一人じゃないんだから。彼は椅子を降ろして、呆然と壁を眺めた。それはもはや彼の部屋ではない。連中にむき出しにされたのだ。赤い霧が目に浮かんでくる。ポケットに手を突っこむと、《おれはひとりっきりじゃない。おれはひとりっきりじゃない》と繰り返した。ダニエルは思った。《おれはひとりっきりだ》。見渡すかぎりの平和のうちで血なまぐさい夢とともにひとりっきりだった。……怒りの涙がミランの眼に溢れた。ダニエルはマルセルの方を振り向いた。」

こんな感じで進んで行くのだが、ストーリーが追えない。

だけど、わたしは「挫折」しない。なぜかというと、わたしは小説を読むときに、ストーリーを追わないからだ。話の展開よりも場面場面の面白さを探しているからだ。だから、わりと平気である。

こんな感じの描写が、これでもかというくらいに続いていくのだが、それにしても、こんな大胆な方法をよくもまあ取り入れたものである。その新しさに驚いてしまう。

映画で場面が激しく切り替わるのに似ているし、絵画のコラージュにも似ている。

4巻を飛ばして読んでも平気だと思う。

 

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2021年10月12日 (火)

十河雅典 展評

戻ってこない。未完のまま。 十河雅典展2021/09/22-10/02 steps gallery Criticism by MIYATA Tetsuya Vol.303

ギャラリー代表、吉岡まさみによると、吉岡はステップスで十河雅典と知り合い、展覧会を始めたという。十河の展覧会が今回何度目かを私は数えていないが、ステップスが10年目なので、少なくとも9回は行っていることになる。
十河の作品は、常に似て非なる。同じようで、全く異なるのだ。それでも同じように見える理由とは、十河が広告をテーマとして取り扱っている為ではないかと私は考えている。広告やロゴが微細に変化している場合が、多々ある。
しかし、十河の作品は広告ではない。本来の芸術なのだ。広告は、時には欲望実現の為の嘘をつく。本来の芸術は、絶対に本当のことしか存在しない。広告と芸術、しかし共に戦争など非常事態には利用されてしまうのが怖い。
私が十河の芸術の広告性に気付いたのは、ドア、縁、消毒液、DM等の雑多な環境の中で十河作品を見た時だ。ああ、何と強く、儚く、脆くも人間存在を主張しているのかと。
吉岡がブログで強調したとおり、今回の「目玉」は、《未完の国家》(24.0×21.0×8.0cm|2021年)である。吉岡はブログで「これは分厚い本のようであるが、メモ帳というか、スケッチブックと呼んだほうがいいのかわからないが、アイデアスケッチ帳なのである」と紹介している。吉岡の意見と異なり、私は作品であると定義する。
8cmもあるのだから、膨大であり、パラパラと見ているつもりが、あっという間に一時間経ってしまった。本気で解析するのであれば、何年も掛かるであろうシロモノだ。そう考えると、例え平面であっても、作品を見るには時間を掛けるべきなのであろう。私など仕事であれば、美術館は15分で見切り、真を捉えたら出てしまう。
私は哲学書であれば、30分で100頁読む。分からなくなったら、前の頁を見ればいいだけだ。特に詩はそう行かない。一頁読むのに、50分掛かる場合が多い。行間を読まなければならない。物理学の方式「ab≠ba」なのだから。
《未完の国家》は、下右図のように、何もない所から混沌が始まり、遠い過去の文字が形成され、図が浮かび上がってくる。それは話し言葉が絵や文字となってきたという定説を覆す。全ては同時に発生し、互いを牽制し、距離を取りながら、私達の意思の疎通を邪魔する。この3万年の管理の歴史が、ここに記されている。余白もとても多い。そこから何を読み取るのか。即ち《未完の国家》は、未来に完成するために未完なのではなく、過去に遡りながら、絶対に完成しないのである。戻ってこない、未完のまま。

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2021年10月11日 (月)

千崎千恵夫展評

宮田徹也氏の千崎評です。

明日、十河さんの評を載せます。

やってこない。未来のまま。 千崎千恵夫展2021/10/04-16 steps gallery Criticism by MIYATA Tetsuya Vol.304

千崎千恵夫(1953-)、ステップス初個展である。私は千崎の作品を初めて見たと思い込んでいたら、2010年に神奈川県民ホールギャラリーで開催された《over tone Ⅱ》に出品していた作品を、ギャラリーにある千崎の作品集を見て、思い出した。11年ぶりであるし、それは立体であったので、実質、今回の初日、初めて見たことになる。
作品を見ていると、見られている作品が見られることを拒否していたり、作品の本質が見えなかったりするのではなく、「これはここにない作品なのだろう」と、漠然に思っていた。木曜日に、作品集が届いた。
「樹が、我々にとって何を意味するのかという問題であり、そして意味する焦点が明らかになるに従い、結局は、樹を含む世界全体の成り立ちから来る、ということが理解できることとなります。しかし特定の場から見ると、異なる文化を背景とし、様々な地域の自然に対する姿を直接捉えることは困難です。その意味で私の位置は、美術の世界を背景に、私なりに今いる場所の中から、自らの五感を開放し、他者と共有できる“場”を設定する方法が、自然と向き合うより良いやり方のように思いました」(25-26頁)。
この千崎の言葉から、私は「普遍」や「不在」を持ってこない。あくまで「ここにない」ことの前提とする。
では、千崎の作品は何処にあるのか。キャプション見ると、作品の制作年は1979,2012-2014年だ。千崎に伺うと「新作は作っているが、直ぐに発表しない。寝かせると作品の良さが分かってくる」という。私はこの一言で、過去の作品を展示する意味を書こうと思ったのだが、千崎の作品群は未来にあると思いついたので、そうすることにした。
カルロ・ロヴェッリは、『時間は存在しない』(2017年|富永星|NHK出版|2019年)と言う。量子力学の発見に、「不確かさ」がある。「たとえば、ある電子が明日どこに表れるかを正確に予測することはできない」。「物理学者の業界用語では、これを位置の「重ね合わせ」状態にあるという」。「時空も、電子のような物理的対象である。そしてやはり揺らぐ。さらに、「重ね合わさった」状態にもなり得る」。「このため現在と過去と未来の区別までが、揺れ動いて不確かになる」(89-90頁)。それでも千崎の作品は、未来からやってこない。未来のままにあるのだと思う。

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2021年10月 8日 (金)

放映なし

朝から「めざましテレビ」を見る。「イマドキ」のコーナーにHILLS CAFE が紹介されるからだ。画面を撮影しようと携帯カメラを手に持ちながら待ち構えていた。ところが、いつもと違って、昨日の地震と、今朝の交通状況についてのことばかり流れている。総武線快速も大幅な遅れと言っている。7:50になっても HILLS CAFE は出てこない。ははあ…地震のニュースで時間をほとんど使ってしまったから「イマドキ」はカットされてしまったのだろう。結局、放映なし。また今度放送されるといいけど。

ニュースの通り、総武線快速はかなりゆっくり進む。一駅ごとに5分以上停車する。それでも早めに出てきたから、銀座に無事到着。HILLS CAFEに寄ってサンドイッチを注文しようと思って、店の前まで行ったが、あれ?看板が出ていない。どうしたんだろうと思いながら店内に入ると、調理担当のお姉さんが一人。「店長まだ着いてないんですよ、電車遅れてるみたいで」とのこと。サンドイッチを注文する。今日は新製品の、カボチャサラダとサラミの「オズの魔法使い」、「あとで取りに来ます」と言ってギャラリーを開ける作業をする。

ギャラリーの用意ができたので、サンドイッチを取りに行く。

さっそくバルコニーで食べる。

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やはり美味しい。でも、なんでオズの魔法使いなんだろう。カボチャ出てきたっけ?

食べ終わったところへ、店長の角田さんが挨拶に来てくれる。届けられなくてすみませんでした、というわけである。

今朝、放送なかったですよね?というと。え?そうですか……と言う。今朝はテレビを見ていなかったらしい。

サルトル『自由への道』2巻に入る。面白くてどんどん読める。マチウという主人公は自分がモデルらしいが、なんかいけ好かない奴である。サルトルはノーベル文学賞に決まるのだが、受賞を拒否する。

木田元はサルトルの小説は二流と言っているが、ノーベル賞の作家が二流だとすると、日本の作家などは、四流、五流だろう。

木田の言う二流はわれわれが使っている「二流」とはちがうかもしれないと思った。

恋人のマルセルにこんなことを言わせている。

「自由であること。全面的に自由であること。それがあなたの悪徳」

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2021年10月 5日 (火)

霜田誠二パフォーマンスのご案内

 

霜田誠二 展に合わせて下記の要領でパフォーマンスを行います。ちょっと早めにお知らせします。

 

☆展覧会(絵画の展示)

2021年 1115日(月)⊸ 20日(土)

12:001900(最終日1700まで)

Steps Gallery(東京都中央区銀座4413琉映ビル5F

 

☆パフォーマンス

11月17日(水)19002000

11月18日(木)19002000

11月19日(金)19002000

各回定員6名(先着順)

料金¥2,000(当日お支払い下さい)

 

申し込み(月‐土の12001700

Steps Galleryに電話かメールでお申し込み下さい。

℡ 0362286195

e-mail stepsyoshioka@nifty.com

申し込み受け付けは1018日(月)~

 

 

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2021年10月 4日 (月)

千崎千恵夫の旧作

今日から千崎千恵夫展が始まるが、出品作すべてが旧作である。

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昔見たような気がする作品も並んだ。ギャラリーで個展、というと普通は新作を並べて、今回どうよ、と評価を迫るものだが、こんなふうに旧作を並べるのも悪くない。

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というか、わたしは旧作展が好きである。

だってさ、個展で一回出したとか言っても、その時いったい何人が見てるんだろう?何万人も見たならまだしも、せいぜい数百人だろう。

旧作を初めて見る人にとっては新作なのである。

せっかく作った作品なんだから、何回も見てもらった方が作品も嬉しいに違いない。

「work No.3」紙に鉛筆 151.0×115.0㎝ 1979 ¥1,500,000

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40年前の作品である。時代を感じるなあ。

「緑へ 1」紙・写真・ワックス 44.0×36.0×7.0㎝ 2012 ¥300,000

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重層的な深い作品である。

「時のかけら」木・紙 17.0×15.0×8.0㎝ 2016 ¥250,000

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「Work No.8」紙に鉛筆 57.0×75.0㎝ 1979 ¥350,000

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作家は、初日と最終日は在廊するが、他の日は未定である。

略歴を書くのを忘れた。

千崎千恵夫

1953 広島県生まれ

1981 東京芸術大学大学院美術学部油絵専攻修了

ギャラリー21、秋山画廊、などで個展多数。1996年には愛知県立美術館で個展。

1993 「表現としての場」(広島市現代美術館)等、国内外でグループ展多数。

多すぎて書ききれない。

1986‐1987 日仏交流展によりフランス滞在

1987‐1988 ACCのグラントによりニューヨークP.S.1に滞在

1989‐1990 アーティスト・イン・レジデンスでドイツ滞在

1998 Ydd.ニューヨーク滞在

 

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2021年10月 2日 (土)

残り3か月

今朝、銀座の伊東屋で2022年のカレンダーを買ってきた。毎年、伊東屋では10月になるとカレンダーフェアがあり、そこでポスターカレンダーを買うのである。今日はこれから来年の予定を書き入れていく。予定を書くのは楽しい。なんでも企画とかイベントとかでは、展覧会やイベント当日よりもこんなふうにしようと考えているときのほうが充実感があるのだ。イベント当日はいろいろ想像することがなくなるのでなんか寂しい。

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さて、今年も残すところあと3か月である。今年のカレンダーは1月から9月までを切り取ってしまって、2022年のカレンダーを貼ることにしようっと。

来週は千崎千恵夫展。改めて紹介するまでもないかと思うが、月曜日に簡単な略歴と作品を紹介する。月曜日に行くからね、と言っている人が多いので、密にならないか心配であるが、人がたくさんになったら、みんなバルコニーに出てもらうかな。

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☆テレビ番組の紹介

前に紹介したHILLS CAFE がテレビで取り上げられる。

10月8日(金)フジテレビ「めざましテレビ」の中の「イマドキ」というコーナーで、玉子サンドが紹介されるそうだ。朝7:50ごろの放映になりそうとのこと。見なくちゃ。

これは先日わたしが注文したBLTサンド。わたしはサンドイッチってミミの部分をちょい残しすることが多いのだが、これはミミまで美味しいので、全部平らげてしまった。

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☆展覧会

「中村ミナト出版記念展」

10月12日(火)ー22日(金)

11:00-18:00

始弘画廊(港区南青山5-7-23始弘ビルB1)

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ミナトさんはカタログを出版した。

『BETWEEN SCULPTURE & JEWELRY』(里文出版 ¥3400+税)

会場で販売するようである。

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執筆陣も多彩である。

樋田豊次郎(美術評論家)

中村英樹(美術評論家)

高山れおな(『芸術新潮』)

島敦彦(国立国際美術館館長)

北村仁美(国立工芸館主任研究員)

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「平石裕展」

10月19日(火)ー31日(日)

12:00-19:00

ATELIER・K(横浜市中区石川町1-6三甚ビル3F)

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☆誌上頒布

『アートコレクターズ』10月号で、87点の作品の誌上頒布があり、ステップスギャラリーも2点参加させてもらった。

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古賀亜希子「聖サヴァの奇蹟」とサーシャ・マリアノヴィッチ「海」である。本屋さんにあるので、見かけたら開いてみてね。

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昨日、タロー書房から電話があり、サルトルの『自由への道』の5と6が入荷したという連絡があり、さっそく購入。

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さて、4巻はどうしようかな。

 

 

 

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2021年9月30日 (木)

『エリザベスの友達』

村田喜代子の『エリザベスの友達』は全体がふんわりしたほのぼのとした小説だが、その中に、「人生」をするどく抉る重要な視点が随所に現れる。

主人公の母親、初音さんは97歳で認知症である。施設に入っている。その施設でのエピソードが楽しい。

旧満州の租界で過ごした時代を楽しく振り返る。

「初音さんは何歳ですか?」

という問いに

「二十歳」

と答える。二十歳のころの楽しかった時代を再び生きなおしているようである。

認知症の人は自由なんです、と施設の職員は言う。好きな時に好きなところへいつでも行けるからである。

若くて屈託のない時代に戻るようである。認知症の人にとっては、「今」、「ここ」という言葉は、わたしたちが生きているこの現在のことではない。あの楽しかった時代が「今」であり「ここ」なのである。それは夢の中の出来事ではなく、本人にとってはそれが現実なのである。「今」、「ここ」は相対的なものであり、あやふやとした不確かな手触りでしかない。

若い時には、いつも未来のことを考えていた。こんな大学に入ってこんなことを勉強したい。好きな職業に就いて楽しく仕事をしたい…思いは膨らむばかりだった。でも、年を取って「未来」がどんどん減ってくると、考えることは将来ではなく過去の思い出に移行していくものだ。未来を妄想するのと同じように思い出の世界を散歩して飽きることがないのだ。ぼうっと思い出に耽るのは楽しい。

「今」、「ここ」などと声高に叫ぶのは若くて元気がよいときだけである。叫びながら、「今」と「ここ」の本当の意味も実感もないままに言葉だけが浮遊する。

展覧会を企画して、さてテーマやタイトルはどうしようか、と考え込んだ末、「現在の行方」だとか「此処から始まる」みたいな上辺だけのうすら寒い言葉をひねり出し、得意げに触れまわる「作家」は、口を開くと、昔の話だけを得意げに自慢するのだ。

「あなたは何歳ですか?」

と訊いてみたくなる。

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2021年9月27日 (月)

伊勢佐木町の倉重光則

9月26日(日)

今日は横浜の倉重光則展を見に行くので、マッサージには行けない。一日がかりになってしまうからなあ。疲れちゃうだろうから、今日はちょっと贅沢をしてみることを自分に許すことにした。わがままな振る舞いをする。

昨日、勝又さんが、テキストを書いてくれたお礼を持っていくわと言ってギャラリーに来てくれた。おお、菓子折りでも持ってきてくれるのかなと期待していたら、渡されたのは白い封筒。金一封であった。

そんなこともあってのプチ贅沢なのである。

コンビニでドライソーセージとひとくち歌舞伎揚を購入、タリーズコーヒーでホットコーヒーSサイズをテイクアウト。稲毛駅のホームで、総武線快速のグリーン券も購入して電車に乗り込む。窓側の席に座り、コーヒーを窓辺に置く。コーヒーの紙コップの背景が動き出す。ちょっとした旅行気分を味わう。ソーセージと歌舞伎揚を口に放り込みコーヒーを啜る。いいじゃんこれ。横浜駅までは70ー80分かかる。

村田喜代子の『エリザベスの友達』を読む。認知症の母親のことを書いた小説だが、思うところ大であった。この小説については次回書く。東京駅に着く前に読み終わってしまったので、サルトルの『自由への道』(岩波文庫)を読み始める。これは全部で6巻あるのだが、1-3だけをタロー書房で買った。

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なぜ全部買わなかったのかというと、4と5が抜けていたからである。店員さんに、今度全部揃ったら4-6を買いに来ます、と言ったら,入荷予定はないと言う。なので、注文しておくことにした。しかし、店員は、ひょっとしたら4巻は在庫がないかもしれないと困ったことを言う。まあ、古本屋さんを探せばいいし、もしなかったら、4巻を跳ばしたことにすればいいだろう。

サルトルの作品について

評論は一流

小説は二流

哲学は三流

と評したのは、哲学者の木田元。

読んでみたら、二流の小説は面白そうである。

横浜到着と同時にコーヒーを飲み終わった。

根岸線に乗り換えて、目的地の関内を乗り越して石川町に行く。先にアトリエ・Kの木下敦也展を見ることにする。

駅前の蕎麦屋さん「木の芽」で昼食。天ざるを頼む。ここは美味しいよね、と勝又さんも言っていた。

アトリエ・K。木片を寄せ集めて作った巨大な飛行機が圧巻であった。ギャラリーの中村さんが、コーヒー淹れましょうか?と言ってくれるがお腹がいっぱいだからと言って遠慮する。じつはこのあと喫茶店に行くつもりなのである。中村さんはこれ持って行ってと、お菓子を持たせてくれた。ギャラリーを出るときに、木下君と入れ違いになる。

駅前まで戻り、カフェ「ポティエコーヒー」に入る。二階の窓沿いのカウンターに座り、コーヒーを頼む。この店は割と空いている。コーヒーがちょっと高めだからね。グアテマラと、前から気になっていた揚げパンを注文。揚げパンはお店で揚げたてを持ってきてくれる。そして、切れ目を入れたパンに挟んであるのは、なんとソフトクリームなのである。揚げパンソフトである。美味しい!ソフトクリームも自家製である。お腹一杯になった。ちょっと食べすぎたかもしれない。贅沢デーだからいいことにしよう。

一駅戻って関内。

いせざきモールに入ると雰囲気がガラッと変わり昭和になる。現代的なお店の中に、昭和の個人店舗が混じる。ディープな街である。

わたしの前を、ハイヒールを履いた女の人が歩いている。ハイヒールといっても細いヒールじゃなくて、その昔ポックリとか言っていたあれである。最近はまた流行ってるらしいね。歩きにくそうに歩いていて超ミニスカートを身に着けているのだが、上半身を見ると、リュックを背負った男なのである。こういう人はここでしか見られないだろう。変な人がいっぱいいるね。

いせざきモールは車が入れない歩行者だけの道である。放送が流れていて、煙草に関する注意を促している。路上喫煙はやめましょうみたいな放送かと思ったら、全然違うのでびっくり。「タバコの火は完全に消してから捨てましょう」だって!なんてディープなんだろう。

アズマテイプロジェクト。

倉重がおお、吉岡が来た、と言って迎えてくれる。握手。

会場には白黒の目がチカチカする映像作品。

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ギャラリーは、二つ目のスペースも出来ていて、まだペンキの匂いが残った会場には「イーバ」作品。

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人型「イーバ」はもう何回も出演していて少々疲れているかもしれない。ドイツにも連れていったし。

「イーバ」は今回で終わりにしようかなと言いながら、一本ちょうだいと言ってわたしの煙草を吸い始める倉重。

このギャラリーでは室内でも喫煙OKである。ここは伊勢佐木町なのである。

来年の1月にStepsで個展が入っているが、え?これが倉重?と人を驚かすような作品にしてね、とクギを刺してから外に出る。

帰りも横浜からグリーン車に乗ってサルトルを読みながら帰る。

こんな1節を見つけた。

「ちょっとしたわがままを数知れず押し通すのは老いていくことにひどく絶望しているからだ。」

 

 

 

 

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2021年9月23日 (木)

アイデアスケッチ

昨日の初日は、十河さんの同級生だという3人が来廊。おそらく芸大の同級生だろう。

これは「家族」の部分。十河作品はやはり細部が面白い。

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フーアーユー

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これは黒い日の丸

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で、裏はこんなふうになっている。表側で引っ搔いたキズが裏まで達している。

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同級生の3人はバルコニーで楽しくおしゃべりしていた。十河さんに電話して、おー、元気か?などと長い時間話していた。そのうち、「フーアーユー」の作品について話し出した。タイトルは「アンタ誰」となっている。わたしは、自分が何者かを問う哲学的なテーマとタイトルだと思っていたが、同級生は違う。

「アンタ誰ってさ、もう認知症なんじゃないの?」

と笑っている。話が盛り上がると、

「次の作品はさ、フーアーユーじゃなくてフーアムアイになったりしてな」

言いたい放題である。これが同級生というものだろう。

さて、スケッチブックの作品である。ランダムに18枚連続で紹介する。みなさん、どういう感想を持つのだろうか。

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